きょうと『現代の名工』作品展を開催!
きょうと『現代の名工』作品展の各作品を解説します。
作品展一覧
№1 作品名「侍 月」作者 山口 昌行
職種 内装仕上 (株式会社 室内装飾ヤマグチ 代表)
受賞 平成26年度 京都府の現代の名工(京都府優秀技能者表彰受賞者)
この作品は、上村松園の絵画「待月」縁側から薄暮の空を見る女性の後姿の美しさを、壁装の技術を使い貼り合わせることによって製作しています。浮き上がったり、しわになったりしないように貼られていることがわかります。また、バックライトを設け、背面の木枠で「京」の文字をあしらったシルエットがほんのりと浮かび上がるような演出がなされ、素敵なインテリア手法としての新たな提案を盛り込んだ作品となっています。
新しい試みと言っても、基本は伝統的な技術を使っています。二枚の紙を張り合わすことなく、あえて空間をつくって浮かします。
苦心した点は、先ずアイデアを創出することでした。越前和紙には大きさに規格があるため、寸法の制約があり、デザインや配置、影の射し加減も想定しておかないと失敗してしまいます。全体のバランスをうまく取るのが特に腕の見せ所です」
印刷業者と共同で取り組むことで、プリント技術も飛躍的に発展しています。それをさらに凹凸のある壁面に貼ることで立体的な印影がかもしだされ、より深みのある作品に仕上がるとのことです。
№2 作品名 「銅製箱 5点」 作者 桶本 忠弘
職種 建築板金 (京都建装株式会社 相談役)
受賞 昭和63年度 京都府の現代の名工(京都府優秀技能者表彰受賞者)
平成11年度 現代の名工(厚生労働大臣表彰受賞者)
この作品は、胴製箱に虫の色は人工発色法(薬品による発色)をしています。其の他の彩色は井堂雅夫画伯が彩色をされました。平面の銅板を切って曲げ、はんだ付け等で組み合わせる「板金(ばんきん)」技法と、金槌で打ちながら立体的に成形する「鍛金(たんきん)」技法を用い、仕上げに金箔を張って作成しています。板金も鍛金も、同じ金属の塑性(変形する性質)を利用している技法ですが、職種は別々で、この2つの技術を思い通りに使いこなす桶本氏は、仕事面の建築板金職種の重鎮であるばかりでなく、京都工芸美術作家協会の会員としても高い評価を得ておられます。
建築板金で有名なのは、寺院などに見られる銅板葺きの屋根などですが、何十年も経て綺麗につく緑青を、あえて薬品でつけるという難しい技を求められることもあります。近年は排気ガスなどの影響で綺麗に緑青がつく前に傷んでしまう場合が多く、素材もステンレスに銅めっきを施した建材を使うことが多くなっています。
材質が変われば少しずつ技術も変わっていきます。実際の施工には加工された既製品を使う場面が多いそうですが、それだけではできない施工もあり、やはり伝統的な手法の板金技術はこれからも必要です。
No.3 作品名「アクリル曲げ器(アクリペット)」 作者 橘 仁郎
職種 電気工事 (木幡電気工業株式会社)
受賞 平成23年度 京都府の現代の名工(京都府優秀技能者表彰受賞者)
この作品は、曲げ幅を調整できる、シャッター方式(5㎜~15㎜)で、アクリル板を手軽で、自由に美しく加工することができます。
アクリ曲げ用ヒーター(アクリパット)は、厚さに関係なく美しく仕上がります。赤外線ヒーターで熱源が直接作品に触れないため、焼け焦げはありません。また、やけどの心配の無いワンタッチ通電方式です。安全スイッチ付きで加工時のみ通電します。消費電量に無駄がなく、省エネタイプの作品です。
このように、小型工芸用電気炉の開発についても、力を注いでいるほか、本格的な電気陶芸窯を製造、設置、保守管理と一体的に行う等、電気工事業ならではのきめ細かいサービスを提供しています。
一般住宅向けの低圧電気工事から高圧電気設備の設置・保守管理等の電気工事業はもとより、自らの高い電気工事の技術を発展させて、工芸用電気炉の設計、製造、販売、設置まで、事業展開を図っています。
№4 作品名 「ゆれる街並み」 作者 荒木 俊成
職種 建築塗装 (株式会社 ARACO 会長)
受賞 平成21年度 京都府の現代の名工(京都府優秀技能者表彰受賞者)
平成27年度 現代の名工(厚生労働大臣表彰受賞者)
高い塗装技術で美術的な装飾を施すデコラティブ・ペインティングの分野には、大きく3つの種類があります。木目や大理石などを本物そっくりに描く疑似仕上げ(フォーフィニッシュ)、長年使いこんだかのようなアンティークな風合いを出すエージング仕上げ、そして美術的な表現で様々な演出を行うアート仕上げ。今回はそのアート仕上げのなかでも特殊とされる、トリックアートの技法で作品をつくりました。すぐにわからないと思いますが、実は発砲スチロールを組み上げたものに塗装をしています。このように、元の素材を別のもののように見せるというのもデコラティブ・ペイントの特徴であり、近年においては、あらゆる分野で必要とされる欠かせない技法となりつつあります。
「35年ほど前にこの分野のことを知り、始めました。当時、デコラティブ・ペイントができる業者は関東に多くあったものの、関西にはほとんどありませんでした。手本になるものも少なく、高度な塗装技術が必要であるうえに、アート的なセンスも求められます」
アートと言っても、時間をかけて仕上げる絵画などと違い、耐久性や安全性を踏まえた建材として施工していく職人の技になります。例えば、橋の欄干に木目を塗装する場合、人が触れたり雨風に晒されたりしても容易に剥がれない丈夫さを備えた塗料が求められます。絵を描くためのものではないため、乾きも早いという特性に注意しながら手早く確実に仕上げる必要があります。
№5 作品名 「coteri(コテリ)」 作者 太田 保夫
職種 畳製作 (有限会社 太田畳店)
受賞 平成22年度 京都府の現代の名工(京都府優秀技能者表彰受賞者)
洋間の多くなった家庭に、半帖程の和の空間を作り出す敷物です。赤ちゃんが安心して”こてり”と寝てしまうような気持ちのいい敷物として、子育て中のお母さん方の意見をもとに商品開発をしました。
その名も『coteri(コテリ)』。寺院などで使用する有職畳「拝敷」を応用したものです。通常は畳のござと紋縁で作成するのですが、「乳幼児用なので綿などを入れて柔らかく、縁にも綿を入れてふっくらと盛り上げ、布地は『倭錦』など金襴豪華なものを!」と提案したところ、お母さんたちからは「柔らかすぎてもダメ!乳幼児に金襴を使うのもダメ!」と指摘を受け、話し合いの結果、畳表は安心安全の熊本産「上級表」、芯材にはクッションフロアの素材、縁は西陣織工房と共同開発で独自に織ってもらった人気のレモン柄やチェリー柄を採用、乳幼児がつまずくことのないようにフラットに仕上げました。
「京畳」の伝統技術を受け継ぐ畳の職人として、これまで国産の材料にこだわり続けてきましたが、材料の提供元が次々と廃業していくなか、素材の変化に対応するとともに顧客の新しいニーズにも応えていくスタイルに変えました。近年はイグサの代わりに和紙などを素材にした畳表も増えています。天然のイグサには、室内の空気を浄化する作用や経年変化で独特の風合いが出てくるなど、利点は多いです。材や製法にはこだわりを持ちつつも、時代の流れに柔軟に対応していく、そんな畳づくりを目指して今後もしっかりと取り組んでいきたいです。
№6 作品名 「ビビットヘアー」 作者 西 栄三
職種 理容 (ヘアーファッション ペンギン白川店)
受賞 令和3年度 京都府の現代の名工(京都府優秀技能者表彰受賞者)
「ビビット」はカラーコントラストなどで用いられている言葉ですが、もともと日本語でないため、誤った意味で捉えられていることも珍しくありませんが、日本で使われている方から、多くは何となくだけど正しい意味を知っている方が多いでしょう。
「ビビット」の意味は3つあります。
1つは「色や映像など」が、「明るい・鮮明な・強烈な・目の覚めるような」という意味です。
2つ目は「描写・記憶・印象など」が、「鮮やかな・目に見えるような・真に迫った」です。
3つ目は「はつらつとした・きびきびした・躍動的な」で、人に対して使うことが多いとされます。
今回の作品は、2017年9月にパリで開催された世界理美容ヘアーコンテストに日本代表として出場し、準優勝した作品の再現です。セニングカット(毛量調整)により、毛が自由に動き長さの変化とカラーで躍動感を表現しています。
マテリアルカットのスペシャリストであり、京都府理容競技大会で6回優勝し、世界大会でも準優勝されています。また、その技術を全国理容連合会中央講師として全国で講習を行い、テキストの解説を以て普及してこられました。開業以来、自店において30人を超える優れた技術者を育成したほか、全国理容連合会中央講師として平成7年から22年までの16年間に全国各地での講師に従事し、高度な技術を理容組合員に伝授されました。
№7作品名 「小型磨き装置 ピン圧入治具 ワーク切断時の落下防止治具」作者 篠原 滝太郎
職種 機械加工 (HILLTOP株式会社)
受賞 平成30年度 京都府の現代の名工(京都府優秀技能者表彰受賞者)
職種の分野は「機械加工、仕上げ」というもので、工作機械や切削工具を用いて材料を様々な形状に加工、さらに磨きをかけたりして精度の高い加工を施したり、部品を組み立てたりする技術です。今回はそのような技術を持った職人向けに、あったら便利というような治具(加工するための器具)や装置をつくりましたので、ご紹介します。
■ワ―ク落下防止冶具
《突っ切り加工の問題点》
パイプ形状の工作物を突切り加工する場合、切断のタイミングがつかめず、切り落とした瞬間に工作物が、回転している冶具に干渉して飛んでいく事故が発生することが後を絶たず大変危険でした。
その理由として左手で切削送りのハンドル操作を行うと同時に、右手で注油(冷却)とワ―クの保持を交互に行い切断するという3つのことを同時にしなければならないので、保持するタイミングが遅れると、工作物が飛んでしまっていました。このため、熟練者でも神経を使う危険な作業でした。
《改善》
専用治具を製作したことにより、ワークが飛ぶ危険はなくなり、左手のハンドル操作と注油(冷却)のみに集中することができ、切断間際の煩いが解消した結果、下図工作物で切断所要時間と加工時間の短縮にもつながりました。
■平行ピン圧入治具
《平行ピン圧入作業の問題点》
従来は、適当な端材から平行ピンの突出高さに合わせた厚みの板材を探し出し、平行ピン径に合わせた穴を加工後、圧入作業という手順で毎回行っていましたが、端材を探す時間、加工時間等が非効率的であり、属人性を低減させるための工夫が必要でした。
《改善点》
厚み14mmまで対応でき、4種類のプレートに平行ピンの径寸法に対応する8種類の穴をあけた冶具を用意することで、96通りのサイズの組合せに即座に対応できます。
■小型磨き装置(ポータブル回転装置)
《磨き作業の問題点》
機械加工後のわずかな打痕やバリ等、キズ等の状態にもよるが人がしなければならない作業として旋盤や手仕上げで全面磨いていました。手仕上げで仕上げをした場合、面にムラで出来る問題があった為、ポータブル回転装置を開発。
《改善》
今までの磨き作業のあり方を見直し。今までの機械加工や組み立ての知識と経験を生かし、安全で、あらゆるワ―クに対応出来る装置を開発。縦横兼用で使用ができ、さらに軽量且つ卓上式。また、磨き作業は職人(旋盤工)が行っていましたが、これを利用する事により誰でも仕上げ作業ができるようになりました。
■補足
特筆すべきは、60才を超えてなお平成26年、27年、28年と各種特級資格を取得、平成27年には、ものづくりマイスターの認定を受け、その多岐にわたる資格知識を活かし現場作業のスペシャリストとして、斬新な観点から、製品品質・生産性・収益性の向上に寄与していることです。
また、第一線の監督指導者として、日々の技術、技能指導を始め多くの研修会を開催し、企業の垣根を越えてものづくりにおける若年技能者の技能向上、技能振興機運の醸成に貢献されています。
№8 作品名 「羽織二枚で着物をつくります」 作者 足立 ヨシ子
職種 和服仕立 (足立和裁研究所 主宰)
受賞 平成20年度 京都府の現代の名工(京都府優秀技能者表彰受賞者)
令和元年度 現代の名工(厚生労働大臣表彰受賞者)
和裁全般に優れた技能を発揮する中で、着物として使っていたが羽織やコートにその形を変える古着の再利用において、羽織二枚から着物を仕立て上げるなど、どのような古着を利用して、どのように生まれ変わらせるかをその経験と技能により判断し、実践する事ができ、また、和裁の技能と洋装の知識を取り入れ、和洋双方に合う着物用コートを作るなど、自分の技能を活かし続けている技能者です。
あわせて、伝統的な良き衣文化としてだけでなく、さらに一歩進めて現代の生活に活き活きとした装いとして、新しい風を巻き起こすことが「きもの」に対する夢や心を育むと考え、自分の技能を活かし続けています。
着物の再利用についても、羽織二枚から着物を仕立て上げたり、着物を羽織やコートに変えたりと、どのように生まれ変わらせるかをその経験と技能により実践しています。
今回の作品は、色の違う絞りの羽織を2枚使って、一枚の着物を作りました。羽織は前おとしがしてある為、あげから上は元のお袖を使うことで、身の丈を長くとることができ、衿肩明おとしまでで、ななめをとることができます。羽織の元の衿を使って衽と衿をとり、着用時に衿の裏になる衽と掛にも、絞りの布を使って、歩いている時に少し見えても表布が見えるようにしました。
和裁学校の主宰として、積極的に後続の指導にあたって、高い技能を持った和裁士を育成しているほか、舞妓・芸妓の衣装など特殊な装束も仕立てています。
№9作品名 「卓(桐・漆塗)」 作者 井口 明夫
職種 家具製造 (井口木工所 代表)
受賞 平成6年度 京都府の現代の名工(京都府優秀技能者表彰受賞者)
今回の作品は、桐の木で杢(もく)の部分を利用して作りました。床の間に香呂や花生の台として使用できます。桐材を使い、ホゾや継ぎ手などで木と木を組み合わせて作る「指物」の技法で製作しています。
この仕事は、木を加工して綺麗に組み上げる精度の高い技術が必要であることはもちろん、難しいとされるのは材料選びです。切った木材でも乾燥の程度などにより、時間が経つにつれて生き物のように「動く」といいます。木の目(柾目や板目)によっては、反り返ったり、伸び縮みしたりします。
木材は岐阜や大阪で仕入れることが多いです。現地で見て、動くかどうかを見極めるのが難しい。この仕事を50年以上していますが、見極めることができるようになったのはここ10年くらい。材木屋さんからも貴重なアドバイスをもらいながら木を選びます。
№10 作品名 「今年の干支(うさぎ)チョコレート」作者 井上 敦子
職種 洋菓子製造 (グラースセゾン洋菓子店)
受賞 平成24年度 京都府の現代の名工(京都府優秀技能者表彰受賞者)
昔から「私、チョコレートバカなんです。」と、公言するほどのチョコレート好き。好きが高じて、ヨーロッパに行くたびにたくさんのチョコレート型を手に入れました。金属製の精緻な細工の型の内面がきらきらする様子は、欧州貴族の煌びやかさを思わせ、作品への想像力をかき立てます。
その努力が実を結び、女性では日本で初めての菓子職種の国家資格1級技能士を取得し、その豊富な経験を生かして、京都府菓子訓練校では設立以来、後続の指導をしています。
型を使うのは、簡単そうに見えて実はとても難しい。温度調整を少しでも間違うと艶やかなチョコレートにならない。チョコレートの温度、部屋の温度、さらに「作り手の気持ち」の3つが揃ってないと、うまくいかないように思います。
ヨーロッパ仕込みの包装(ラッピング)技術にも力を入れています。ただ作るだけではなく、お客様が受け取ってどう感じてくれるのかを想像しながら、商品を手渡すその瞬間まで手間を惜しまないスタイルを、これからも続けていきます。
№11作品名 「上和菓子 四季彩」 作者 將野 義雄
職種 生菓子製造(京菓子司 二葉軒)
受賞 令和2年度 内閣府叙勲 黄綬褒章受章
令和2年度 全国技能士会連合会会長表彰
平成17年度 京都府の現代の名工(京都府優秀技能受賞者)
平成17年度 全国技能士連合会認定 マイスター
平成25年度 ものづくりマイスター(厚生労働省認定)
平成27年度 現代の名工(厚生労働大臣表彰受賞者)
お団子や草餅など、作ったその日のうちに食べるよう作られたものを「朝生菓子」と言いますが、作品に出しているのは「上生菓子」で、数日間はおいしくいただけるものです。お茶席に出されたり、婚礼などの祝い事や棟上げの際に贈られたりと、人生の節目を飾るのにも欠かせない生活文化のひとつとして発展してきました。今回は持ち前の技と工夫を活かして、四季の彩りを表現しています。
「定番の同じものを作り続けるなら、一定期間練習すればできるようになります。ただ、上生菓子を人様に出すならば、技術だけではなく、職人としての勘やセンスといったものが必要なんだろうなと思います」
もともと家業としての和菓子店を継ぐかどうかも考えないうちにアルバイトとしてある店に入ったのがきっかけだったそうですが、本格的にこの世界にのめり込んだのは、「工芸菓子」に魅せられてからのことだと言います。日本でも指折りの工芸菓子職人のもとに住み込みで修業に入り、その後様々な偶然も重なって、菓子界のオリンピックともいわれる全国菓子大博覧会に3回出場、平成29年の三重大会では功績を買われ審査員に選ばれることとなりました。
「手の内は見せないというのが、この世界には多く見られますが、私には技術を残したいという気持ちが強くあります。だから若い人に教えてほしいと請われれば、できる限り教えたいと思います」
近年は、子供たちにも和菓子を知ってもらおうと、体験教室に積極的に取り組んでおられます。
№12 作品名 「おくどさん」 作者 佐伯 護
職種 左官(佐伯左官工業)
受賞 平成22年度 京都府の現代の名工(京都府優秀技能者表彰受賞者)
「これでご飯を炊いたら、美味しいですよ。ほかにも漆喰でピザ釜作って焼いたことがあります。焼きたてはほんまにうまいです」
今回の作品は「おくどさん」です。一昔前、昭和の時代には現役で日本の食卓を支えていてくれました。平成になるとすっかりその影が薄くなり、平成生まれの人にとってはかえって新しい文化となっています。「おくどさん」は見直されて、あえて「おくどさん」で炊いたご飯を提供している飲食店もあるほどです。この作品からも想像できるように、一口に左官業と言っても、土・漆喰を使ったり、近代的な建物ではセメントを扱ったりと、かなり幅広い業種です。
だいたいの業者は、土専門とかセメント専門という形で分かれることが多いですが、私みたいにどちらもできる業者もあります。かつては外壁、内壁、土間はもちろん、おくどさん(かまど)も左官の仕事でした。今では、レンガ・ブロック・タイル・塗装など、使う建材ごとに業者も分かれてきました。
左官の道具といえば鏝ですが、最近は鍛造で作ったいい鏝があまりなく、若い人はネットで古き良きものを手に入れています。材料の土も京都には聚楽土などがあって恵まれていましたが、仕入れ先の土屋さんや建材店も今ではごく限られています。壁や床を鏝で継ぎ目なく均一に仕上げていくのが左官の腕の見せ所ですが、一方で今回の作品のようにモノを成形するというのは、あまり仕事で出てきません。少し前に、「岩をつくってみよう」ということで組合の仲間を引き連れ、当名工展で別に出展している塗装職種の荒木氏のところにロックワーク(岩の造形)を習いに行きました。左官職人の発想では、材を足していきながら成形していくことになりがちですが、そこではマイナスの発想、荒っぽく削り取りながら次第に自然な岩の形が出来上がっていくのを目の当たりにして驚きました。今後もいろいろな可能性を追求していきたいです。
№13 作品名「瓦葺ガイドライン工法の仕組み」作者 光本 大助
職種 かわらぶき(光本瓦店有限会社 代表取締役)
受賞 平成27年度 京都府の現代の名工(京都府優秀技能者表彰受賞者)
令和 2年度 現代の名工(厚生労働大臣表彰受賞者)
令和 3年度 黄綬褒章
阪神・淡路大震災で瓦は落ちる、瓦屋根は重いといったイメージが先行してしまいました。当時、確かに古い家屋では屋根に重い土を載せたうえで瓦を葺くというものがあり、また瓦も固定されていないため、地震で瓦が落ちてしまう映像が取り上げられたりしました。昔の人に言わせれば、地震のときこそ瓦を落として屋根を軽くし、建物を守るのだという考えもあったようです。
対策を迫られた業界では、そこかしこで、耐震施工のための試行錯誤が行われました。光本氏もその一人で、今でいう「ガイドライン工法」の確立に大きく貢献しました。光本氏は、従来からある具材で十分な耐震性、具体的には重力加速度3Gに耐えうる補強ができるかを検討しました。
例えば、棟部(瓦屋根の頂上部分)の補強には、従来からある銅製の「ともえ釘」(巴瓦を固定する長い釘)を改良して冠瓦を固定、揺れるときには柔軟に揺れを吸収しながら止まれば元に戻るというのを実証実験により証明しました。今回の作品はミニチュアなものですが、逆さにしたり、引っ張ったりというのは実際の実験と同じ方法だそうです。ガイドライン工法は、震度7にも耐えうるほか、近年被害が増えつつある巨大台風でも瓦が飛ぶことのない施工技術として注目されています。
近年、瓦の需要は減少しつつあると言われますが、瓦屋根を施工する場合には、より美的なこだわりの強い要求に応えることも必要になってきています。古い寺社での葺き替えにおいては、経年による自然な風合いを維持することが求められたりします。昔ながらの屋根の雰囲気を壊さないように、古い資料を参考に、瓦に使う粘土の質にもこだわります。